鴉の舞い
お題作品「コクピット」
 ちょい,手抜きかも。それなりに考えはしたけれども。
結構,長いので読む際は体の調子に注意して,読んでください。

 「――――というわけだ,少尉。君には午後からの
テストに参加してもらう。準備をしておきなさい」
 突然上官に呼び出されたと思ったら,新型LDのテスト
とは。めんどくさい,真っ先にそう感じてしまったのは
メイ・シオン少尉。国連軍派遣でアフガンに飛ばされ,
毎日退屈な警備任務か,極端に危険な鎮圧任務。
 それだけでも面倒だと思っているのに今度は
新型二足歩行型機動兵器・LDの試験運用。
いつものなら午後のシフトは昼寝をしているのに,
暑苦しい中,狭いコクピットに入ってモルモット。
 「了解しました。メイ・シオン,直ちに準備に入ります」
 それでも返答しなければならないのは元来ある若干の生真面目さ
か,軍に所属しているという意識のためか。
そもそも今回のテストに選ばれた理由をシオンは知らされていなかった。
だが,シオンとて間抜けではない。だいたいの予想は付いてる。
恐らくはなかなか反乱活動の止まないテロリストの鎮圧に手こずっている
ため,司令部が業を煮やしたか,軍事企業の体のいい実戦データ取りか。
 どちらでもいい。早く終わらせてくれるならば。
そう思いつつシオンは簡易式の格納庫に向かう。命令を授与した以上,
きちんとやるべきことは行わなくてはいけない。
 命令によれば,機体に乗る前に簡単なブリーフィングがあるはず。
そこで主な内容が下されるのだ。いつものこと。
 「あら,シオン。あなたが乗るの?」
 LDの管制官―――シオンの相棒でもあったが―――アリス・
ノーバック少尉が話しかけてくる。今回の任務もこの女性が
シオンのオペレータとなるらしい。
 「さっき,指示が出されたから」
 「今回の新型は結構じゃじゃ馬な性能らしいわよ。
それにしても,もうちょっと元気に答えられないの?」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「しかもまた昨日さぼったでしょ,待機任務!
どこを探しても少尉がいません,交代の時間なのですがって
ゲルトン軍曹が泣きついてきたわ。どこで寝てたの」
 「格納庫の,屋上」とややうんざり気味にシオン。
 「やっぱり・・・・・・よくそんなところで寝られるわね・・・。
とにかくさぼらないこと,これ以上。隊長に怒られるのはわたし
なんだから!」
 一歳年上というだけで何かと世話を焼こうとする。
アリスからしてみれば,実生活と戦闘以外では怠惰なシオンの
『教育』をしているらしいが,シオンからしてみれば騒がしいの
一言に尽きる。
 「アリス,少しうるさい」
 「もう,うるさいじゃない! あなたのせいで隊長から
シオンの世話係よろしくねって言われるのよ」
 それは,自分でも言っていたではないか,と思うが口には出さない。
口に出したりでもすれば,またこの世話係はうるさく言ってくる。
本人も世話係に任命されていることに不満というわけではな。。
自分からもそう言っていたし,シオンにもそのように振る舞っていた。
 「分かった。今度からは気をつける。だからまずは任務だ」
 「まったく・・・その言葉は何回も聞いてきたわ・・・・・・」
 アリスにしてみれば,シオンは少々内向的な所があるのに気を使っているのだ。
いつもひとりで行動して,作戦中以外はほとんど人とコミュニケーションを
取ろうとしない。素直に指示を聞くのは隊長の言うことだけだ。
 話しかけてみれば無視か,端的な答えしか返ってこない。
おまけにぴくりとも表情を変えず,LDの扱いだけは基地の中でも五指に入る
レベル。そんな条件が重なれば,誰でも交流を控えるというものだ。
 そんなシオンに唯一コンタクトを取れ,まともな会話が出来るのが
アリスと二人が所属している部隊の隊長,クリス・ケミルトン大尉だけである。
 
 「機体に乗るときは,この特殊スーツを着てもらいます。
機体がハイレベルでの機動をする際,内部に備え付けられた新開発の
リンクジェルが皮膚から浸透し,機体との適合率を高めることが出来るのです」
 今回のLDの開発元である,フィエルン・コーポレーションから出向してきた
技術者はそう説明してくれた。手には説明のときに使った情報端末と,
話に出てきた特殊スーツ。見た目は通常のLD戦闘服とほとんど変わりはない。
せいぜい,ブラックからグレーに色が変わった程度である。
 「リンクジェルは,機体と同乗している戦術コンピュータがあなた方の
戦闘時における身体データに基づいて自動で注入されます。
痛みはありませんが,人によっては一時的に不快感が出るかもしれませんので。
 なお,必要に応じてオペレータの皆さんや私の手で指示を下して注入される
場合もあります。その時は前もって通信をいれます」
 通常LDは搭乗者の脳波を機体と同期させて稼働させる。
簡潔に言えば脳波と駆動系が直接,または間接的に繋がっている,というわけだ。
だが,今回の新型は脳波だけではなく,神経の状態まで合わせて稼働させる。
それに関する搭乗者のリスクは二割以下となっているがシオンには信用できない。
 たいがい,こういったデータは実戦では無意味だ。見たところ,まだ一度も
実戦的なテストはされていないように見えた。
 「それで,今回のテストはどこでやるんだい?」
 シオンと同じくテストパイロットのジョニック・ケプナー少尉が
質問を加える。アメリカ人だが,妙に謙虚なところがあり,人望もある。
少なくともシオンとはまるで正反対な人物だ。
 「基地から少し離れたところに,オアシスがありますよね。
あそこでやります。あなた方三人に同行するのは同じ部隊から三名選出された
皆さんです。もし,緊急事態になったときはお願いします」
 今回テストパイロットに選ばれたのはシオンを含めて三人。
妥当な数であろう。用意された新型は四機だが,一機は予備機,残りが
テストで使用されることになっていた。
 随伴機も三機。テストパイロットの三名のそれぞれの部隊から,
最も技量が高いとされる精鋭たちだ。彼らとテストパイロットたちの
オペレータがそれぞれに六人。これまた,妥当な数。
 「よろしく,メイ少尉。今回が初めての任務だね。よろしく」
 先程のジョニック少尉がさわやかに声を掛けてくるが,シオンは
軽く頷いた程度で挨拶と共に差し出された握手の手には見向きもしない。
 そんなことを気にした風もなく,ジョニック少尉は自機へと歩いていった。
続いてシオンに挨拶してきたのは日本人のヤナセ・タカヨシ少尉。
こちらはシオンのことを聞いているのかラフな敬礼をして無言で去った。
 皆,それなりに優秀なLDドライバー。実戦経験も国連軍にしては
相当数を踏んでいる。ジョニック少尉に至っては元の所属が海兵隊だ。
大尉に昇進する話を蹴ってまで国連軍に参加したらしい。正義感が強いのだろう。
 ヤナセ少尉は自衛官。日本の事情に詳しくないシオンには自衛隊という
システムがよく分からないが,非常に厳格で「サムライ」のお手本みたいな
男とのアリスからの情報があった。サムライも知らないシオンにとっては
全く意味不明な情報ではあったが。
 一方,シオンと言えば,孤児院で暮らしていたところ追い出され,
当てもなく彷徨っていた時に徴兵され,今に至る。
 テストパイロットの中では最も若い十九歳。そのため舐めて見られることも
多かったが,当人がまるで気にしていないので舐めている人間からしても
興ざめだろう。アリス曰く,「可愛くないけれども,時たま可愛くなる」らしい。
いつでもアリスの言っていることがシオンには奇っ怪なことに聞こえる。
 特殊スーツを身に纏い,テスト機に向かう。
開発コードと名前はたしか,XLD−9アンダインだったか。
青色に塗装された表面。従来機とは違い,ゆるやかな曲面装甲が増えている。
従来機とは全く異なるコンセプトらしい。新型のプラズマ・ドライバ。 
顔はバイザー状。背中には試作の高速機動用ジェット・エンジン。
武装はジョニック機が六連弾倉式リボルバーバズーカ二挺,ヤナセ機が近接戦装備。
そしてシオンは通常装備のバトルライフルとヒートブレード。
それぞれ,各レンジに合わせての装備だ。三人とも問題はない。
 随伴機は従来型のプラズマ・バッテリ式。武装はシオン機と同じ,通常装備。
新型機と比べるといささか無骨な印象を受ける。兵器としては問題ないが。
 シオンはアンダインへと乗り込む。コクピットは人体で言う背中の上辺り。
開閉ハンドルを回し,狭いコクピットに乗り込み,機体を起動させる。
 OSは最新型。スムーズに立ち上がり,真っ黒だったモニタが外の風景を
映し出す。目の前にはアリス。姿がよく見える。カメラの性能は良いようだ。
 全長六メートルの巨人が立ち上がり, そのまま格納庫の外へと歩き出す。
操作は円滑。シートも座り心地は最高。関節動作に淀みはない。
基本的な動作は問題ないようだ。次々と格納庫内にLDの反応。
皆,起動させていき,出撃準備。
 『メイ少尉。そのまま作戦エリアまで進行してください。
隊列はヤナセ少尉が先頭,次にメイ少尉。最後にジョニック少尉で。
随伴機のかたがたは我々のトレーラーの速度に合わせてください』
 『了解』
 どうやら今回の指揮はあの技術者が取るようだ。
本職でもない人間に畑違いのことをされるのは気が進まないが,
開発元から来たのだ。テストの指示くらいはするべきなのかもしれない。
 LDの歩きで,エリアへと向かう。移動中もあれこれとデータを取っているらしく,
一定時間毎に心拍数などの情報が教えられていた。
 シオンは標準,ヤナセ少尉が若干の緊張気味らしい。ジョニックは
標準以下。かなりリラックスしているらしく,相方のオペレータとジョークを
交えての会話を楽しんでいた。のんきなものである。
 アリスも何かと話題を振ってくるが,シオンは適当に相槌を打つだけで,
ほとんど聞いてはいなかった。無関心,無関係,無意味。
 怒られたりしながらも,機は進み,予定時刻よりもいくぶんか早い時間に
作戦エリアへと着くことが出来た。
 『では,これよりテスト内容を説明します。
メイ機はまず――――』轟音。砲弾が近くに着弾。
 技術者が言い終わる前に,敵が来るとは。基地の動向をチェックして,
新型を狙ってきたクチだろう。幸い,トレーラーとの距離はかなり離れている。
戦闘になったとしても問題はなかろう。することは,一つ。
 「こちら,メイ機。敵反応,多数。迎撃行動に入る」
 『待ちなさい,シオン。まだ指示が――――』
 「良いじゃないか,少尉殿。新型の実戦テスト。
予算も時間も削れて良いことですよ。実弾は装填済みですし」
 ジョニック少尉がのってくる。さわやかな人畜無害に見えたが
案外調子のいい男だ。
 『ケプナー少尉は回線に割り込まないでください! シオン,
司令部からの指示を待ってから――――』
 「構わないだろう。待っていては,やられる。
その前に,やる」
 『・・・・・・分かりました。戦闘を許可します。
ですが,機体に中度の損傷を受けた場合,速やかに後退を。
機体の安全が最優先です』
 先程まで黙っていた技官が指示を下す。現状のトップは
この男だ。その男が下したのであれば,従わないわけにはいかない。
 『特務技官!? なにを言ってるんですか。今はテスト中で』
 『我が社の総意を鑑みて,わたしは言ったのです。
今回のテストは予測不可能な場合にこそやる価値がある。
それだけのモノなのですよ,アンダインは』
 後の言葉はノイズで聞こえなくなる。ともあれ,正式な許可が下りたのだ。
仕掛けてきたのは,敵。戦闘後の後付も完璧だ。
心なしか,心臓の鼓動が早くなっていくのをシオンは感じた。
 
 久々の戦闘。新型で,戦闘。これほどのコンディションで戦えるのは
久しぶりだ。トレーラーから敵のデータが送られてくる。
 戦車が六台,LDが五機。テロリスト風情にしてはなかなか充実した部隊だ。
LDはヨーロッパからの輸出品と中国製。武装は二機が重装備。
肩には六連ロケットランチャー,両手にフォールディング・バズーカ。
もう一機も似たような装備。残りの三機はシオン機とヤナセ機の両方を
装備している。戦力差から考えて,敵側の方が有利だ。
だが,伊達にこちらも新型ではない。敵を殲滅させずとも,撤退程度には
追い詰められるだろう。シオンの脳波を受け,機体の全駆動系がアクティブに。
ライフルの安全装置を解除。神経で感じる,躍動。
 『ヤナセ機はジェットで急速接近,ケプナー機はそれを援護。
メイ機は二人に合わせて行動せよ』とヤナセ少尉専任オペレータが各機に指示を飛ばす。
それぞれ,了解,と短く返事。ヤナセ機の後方にいたシオンのモニタには,
ヤナセ機に搭載されているジェット・エンジンのノズルに火が灯っているのが見えた。
 瞬間,ヤナセ機は圧倒的な推力で,地面を滑るかのように加速する。
あの速度では戦闘機動など出来ないだろう。ただ突撃するためだけの,装備。
 『ハァァァ!』あっという間に敵戦車の一台との間合いを詰めたヤナセ機は
腰に装備されていたヒートブレードをアクティブ,刀身が赤く染まり,白熱化していく。
 瞬間,下からの切り上げた動作で戦車の砲台を切り裂く。
敵の機関砲が撃たれる前に正面から突き刺す。刺された周囲の装甲が熱で赤くなり,溶ける。
 続いてジョニックもリボルバーバズーカを撃ち始めた。敵の砲弾をかいくぐりながらの
攻撃に,敵は翻弄され,撃墜されていく。
 さすがは優秀なLDドライバー。戦闘を始めてすぐにこちらのペースに引き込む。
シオンも砂漠に足を取られないよう気をつけながら,走る。撃つ。
こちらはあくまでも二人の支援だ。敵LDの姿は,見えない。どこに隠れた。
 あっという間に戦車六台を撃破。ヤナセが三機,ジョニックが二機,シオンが一機。
敵の攻撃が一番激しかったヤナセ機は一発も被弾していない。さすがだ。
 ジョニック機は肩部装甲に掠めていた。大したダメージでもない。シオンは
さほど戦闘に参加していなかったため,動き回った時間も短く,攻撃も少なめ。
よって被弾はゼロ。
 『なんだか,体がぬるぬるしてるような感じがする・・・。気持ち悪い・・・』
 説明にあったジェルのことを言っているのだろう。あれだけの機動をしたのだ。
ジェルが浸透しているのは当然である。
 『そうかな? そんなに違和感は感じないけど。気にしなくてもいいんじゃないか』
 ジョニックはあまり気にしていない。神経が図太いのか,鈍いのか。
 『メイ少尉はどうだ,ぬるぬるしないか』とヤナセ。
 「おれは二人ほど動いていない・・・ジェルの使用はまだだ」
 ヤナセ少尉はほんとうに嫌そうだ。シオンには未だ分からぬことだが。
 『敵戦車,殲滅完了。ご苦労様,シオン』
 「戦闘はまだ終わっていない。反応にはLDがいたはずだ。どこにいる」
 『待って・・・ここら辺は磁場の影響が強くてあんまりセンサが作動しないのよ・・・』
 敵はどこにいるのか。敵にしてみればこちらの位置は丸見えのはずだ。
アンダインに積んであるセンサはそれなりに良質のものを使ってはいたが,戦闘後の
砂塵や,その他の要素であまり期待できるほどではなかった。
 地の利は向こうにある。国連軍は派遣されてまだ二月。まだ精錬される時期ではない。
シオンは機体をゆっくりと回転させながら周囲をうかがう。
どこにいる。戦いたいなら,出てこい。おれはここにいる。
息が荒い。戦闘が始まって三十分は経っている。消耗してきたころを狙う気か。
 ヤナセ機のすぐ側に,爆発。音が伝わってくる前にアリスからの通信。
敵情報,位置,適切な運動パターン。技官から,心拍数の上昇が急だ,落ち着けとの
指示。それを聞きながらシオンは背部のジェットを始動。体になにかが入り込むような感覚。
これが話にあったジェル。ジェルと同時に心拍を抑える液体も注入されていく。
少し,頭が冷えるような感覚。機体はかなりの速度で敵に近づいていった。近い。
 見えた。砂漠にあわせた,ベージュの装甲。くたびれていたが,殺意ははっきりと
伝わってきた。ライフルを使うまでもない。腰のヒートブレードを構え,すれ違い様に,
一撃。刃は敵胴体に食い込み,じわじわと装甲を溶かす。あまり長時間は使えない
ヒートブレードだが,威力は高い。稼働限界が近づく。まだ,切れない。
両手を合わせ,むりやり切り裂いた。敵の上半身が地面に落ち,下半身は切り目から爆発。
 シオン,一機撃墜。

 難しいのお・・・。好きなジャンルでもここまで難しいのは久々です。
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